2006年06月11日

ランコムの躍進Vol.9:最終回 グローバル企業

プロモーション
化粧品業界ランコムは、TVCMはほとんど実施せず、女性誌や新聞に外国人の女優やモデルを起用したインパクトのある全面カラー広告を出すことで、ブランドイメージを醸成しています。またサンプリング、限定品の発売、カウンセリングの強化、専属メイクアップアーティストによるサービス、愛用者の会の組織化など顧客満足度を高める施策を継続的に実施しています。ただ、これらは外資系高級ブランドに共通するプロモーション展開であり競争が熾烈で差別化は簡単ではありません。

まとめ
以上、9回にわたってランコムについて考えてきましたが、まとめるとランコムが日本で成功した特筆すべき要因は2つあると言えます。第一は日本での研究開発及び生産体制の早期確立により日本女性に合う商品を提供してきたこと、第二は競合よりも魅力的な売場の獲得に成功してきたことです。とりわけ「日本女性のために作られた外資系ブランド化粧品」という新しい価値を市場に持ち込んだ点は大きかったと言えます。

これには、ロレアルが国際組織において海外子会社に権限を大幅に委譲していることも関係しているようです。80年代にロレアルの国際組織の礎を作ったCEO、ダルは、当時、モデルにしようと考えていたアメリカの多国籍企業が期待外れだったと言っています。アメリカの企業は海外に進出するさいに、アメリカ式の手法をそのまま適用しようとする傾向があるというのがその理由でした。そこで、ダルはアメリカ式に頼らず、一から国際組織を作っていたのですが、その際、グローバル戦略とマルチドメスティック戦略をうまく融合できる国際組織を目指したのです。

例えば、プロモーションの手法や内容について、海外子会社の担当者はパリ本部の事業部長の指示を受けますが、指揮命令系統上では海外子会社の担当者はその海外子会社の社長の下に置きました。そして海外子会社の社長には本社の副社長の肩書きと権限を与え、高い独立性を確保させたのです。

このダルの思想があってこそ、日本ロレアルがパリ本部のブランド哲学を守りながら、世界一うるさい日本女性に特化した商品開発を積極的に行うことができたと思われます。

終わりに
このように、90年代後半から2000年にかけて日本市場で急成長を成し遂げたランコムですが、その後失速し、最近は低迷を続けています。度々の発売日延期や中止による顧客からの信頼失墜、新客を固定化できない現場の状況などいくつかの原因が挙げられており、再び成長路線に戻るには時間がかかると言われています。

ただ、考えてみると化粧品といえども、高級ブランド品はブランド品。流行り廃りのトレンドはあって当然かもしれません。また、もう一点、ランコムを展開するロレアルが、世界最大の化粧品企業であることも意識しなくてはいけません。

化粧品業界 昨年秋に実施されたある調査会社のレポートによると、中国の化粧品市場において、ランコムは20 歳以上の女性化粧品ユーザーの知名度ナンバー1。現在主に使用している化粧品について聞いたところ、基礎化粧品、ベースメイク、機能化粧品、メイクアップの4 つのカテゴリ全てにおいて、ランコムは5 位以内に入っています。また中国で化粧品の販売額が全国トップ10位にあるデパートを調べた別の調査の結果では、ランコムの売り上げが最も高いことが明らかになっています。

成熟している日本市場での失地挽回も重要ですが、今は成長著しい中国での投資拡大を図る。ロレアルが世界でブランドビジネスを展開するグローバル企業であることを考えれば理にかなっているように思えます。
(シリーズ:ランコムの躍進 完)

参考文献:
われわれは、いかにして世界一になったか?―ロレアル 最も大きく、最も国際的な会社の成功物語

調査データ
インフォプラント 2005年11月24日発表【東アジアの化粧品ブランド事情】
China Radio International「中国都市部女性とブランド品」


化粧品業界

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